コーヒー豆の産地を気にしたり、野菜の生産地を確認したりすることは、今や当たり前になりました。しかし、お墓の石材がどこから来ているか、考えたことはあるでしょうか?
実は、日本国内で建てられる墓石の多くは、複雑なグローバルサプライチェーンを経て、私たちの手元に届いています。春のお彼岸を前に、あなたの家族のお墓がどこから来たのか、そして今後の墓石価格がどう変わっていくのか、一緒に見ていきましょう。
墓石の「産地」には2つの意味がある
まず知っておきたいのは、墓石の「産地」には2つの意味があるということです。
原石の産地:石そのものが採掘される場所

墓石の原料となる石材は、世界中の採石場で採掘されます。
主な原石の産地
- 中国:福建省、山東省など
- インド:カルナタカ州、アンドラプラデシュ州など
- 南アフリカ:高級黒御影石の産地
- スウェーデン・ノルウェー:北欧系の墓石材
- 日本:香川県の庵治石、佐賀県の天山石、茨城県の真壁石、愛知県の岡崎石、など
加工地:石が墓石の形に加工される場所

採掘された原石は、そのままでは墓石になりません。切断し、磨き、彫刻して、初めて墓石になります。
主な加工地
- 中国:全体の約70〜80%
- インド:約10〜15%
- 日本:約5〜10%
つまり、「インド産の石材」と言っても、実際にはインドで採掘された石を中国で加工している場合が多いのです。
墓石のグローバルサプライチェーン
では、実際に墓石はどのような経路で日本に届くのでしょうか。典型的な流れを見てみましょう。
ケース1:中国加工の墓石(最も一般的)

- 原石採掘:インドや中国の採石場で原石を採掘
- 海上輸送:大型の原石を中国の加工工場へ船で運搬
- 加工:中国の石材加工工場で切断・研磨・彫刻
- コンテナ積載:完成した墓石をコンテナに積み込み
- 日本へ輸送:海上輸送で日本の港へ
- 通関・配送:税関を通過後、石材店の倉庫へ
- 施工:墓地で組み立て・設置
このプロセス全体で、3〜6ヶ月かかることが一般的です。
ケース2:国産石材(国内完結型)

- 原石採掘:日本国内の採石場(香川、茨城、愛知など)
- 国内加工:国内の加工工場で加工
- 配送:トラックで墓地へ
- 施工:墓地で組み立て・設置
国産の場合、1〜3ヶ月程度で完成することが多いです。
中国が加工の中心になった理由
なぜ、世界中の石材が中国で加工されるのでしょうか?
1. 人件費の優位性(かつては)
2000年代まで、中国の人件費は日本の10分の1以下でした。手作業の多い石材加工において、これは圧倒的なコストメリットでした。
2. 大規模な設備投資
中国政府の補助金もあり、石材加工工場は大型の機械設備を次々と導入。大量生産体制を確立しました。
3. 熟練工の育成
数十年にわたる積み重ねで、中国の石材加工技術は著しく向上。今では日本と遜色ないレベルに達しています。
4. 地理的な優位性
アジア各国からの原石輸送、日本への製品輸送、どちらも効率的なルートを確保できる位置にあります。
しかし、今、変化が起きている
2025年現在、この中国中心のサプライチェーンに変化の兆しが見えています。
中国国内のコスト上昇
人件費の上昇
中国の経済発展に伴い、労働者の賃金は上昇し続けています。かつての「格安」は過去のものになりつつあります。
補助金の削減
中国政府が輸出産業への補助金を段階的に削減。電力費や設備投資の優遇措置が縮小され、製造コストが上昇しています。
環境規制の強化
石材加工は粉塵や排水の問題があり、環境規制が厳しくなるにつれて、対策コストが増大しています。
インドの台頭
インドは原石の産地としてだけでなく、加工地としても存在感を増しています。
インドの強み
- 豊富な原石資源(採掘から加工まで一貫生産)
- 中国よりまだ低い人件費
- 英語が通じるビジネス環境
インドの課題
- インドからの船輸送なので、納期がかかる。また遅れるリスクもある。
- インフラ(港湾、道路)がまだ発展途上
- 品質管理が中国ほど安定していない
国産回帰の動き
一部の高級墓石や、こだわりを持つ顧客向けに、国産石材・国内加工が再評価されています。
国産のメリット
- 品質の確実性
- 短い納期
- きめ細かな対応(オーダーメイド)
- 輸送リスクの低さ
国産のデメリット
- 価格が高い(中国加工の1.5〜3倍)
- 供給量に限りがある
お墓ディレクターの視点
日本国内産のお墓は、国内回帰の動きもある一方、お墓を建てる人が減っているので、国内産業の衰退というリスクも見逃せません。特に採石業は倒産、廃業というニュースをよく聞きます。特にどうしてもこの石でお墓を建てたいと考える人、例えば、地元の石だとか、興味あるブランドの石だとかいう場合、建てることが出来るかどうかはよく確認した方がいいと思います。
国際情勢が墓石価格に影響する仕組み
墓石は一見、国際情勢とは無縁に思えるかもしれません。しかし実際には、様々な要因が価格に影響します。
為替レート
墓石の大半が輸入品である以上、円安・円高は直接価格に影響します。
具体例
1ドル=110円のとき100万円だった墓石が、1ドル=150円になると約136万円になる計算です。(2024年以降の円安で、実際にこの程度の価格上昇が起きています)
海上輸送費
新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、海上輸送費(コンテナ運賃)は大きく変動しています。
2019年:1コンテナ約20万円
2021年(ピーク時):1コンテナ約100万円
2025年現在:1コンテナ約40〜50万円
この輸送費は、そのまま墓石価格に転嫁されます。
原油価格
石材の採掘、加工、輸送のすべてにエネルギーが必要です。原油価格が上がれば、製造コストも上昇します。
国際関係
米中貿易摩擦
中国からの輸入品に関税がかけられる可能性は、間接的に日本の墓石市場にも影響します。
地政学リスク
台湾海峡の緊張、南シナ海の情勢など、アジア地域の不安定化は、輸送ルートや保険料に影響を与えます。
中国の産業政策
冒頭で触れた補助金削減は、まさに中国政府の政策転換の一例です。中国が「世界の工場」から「技術立国」へシフトする中で、石材加工のような労働集約型産業への支援は縮小されています。
また中国自体が景気後退の局面にある現在、様々な輸出産業への影響は懸念されます。
お墓ディレクターの視点
こういった国際情勢に一切関係ないのが、「国内産、国内加工のお墓」です。そこがメリットだと言えるのかもしれません。
産地別の特徴と価格構造
では、実際に産地による違いは何でしょうか?
中国産石材(中国加工)
特徴
- 価格:★★★★☆(比較的安価)
- 品質:★★★★☆(安定している)
- 納期:★★★☆☆(3〜6ヶ月)
- バリエーション:豊富
適している人
- コストパフォーマンスを重視
- 標準的なデザインで十分
- 納期に余裕がある
インド産石材(インド加工)
特徴
- 価格:★★★☆☆(中国よりやや高め)
- 品質:★★★☆☆(ばらつきあり)
- 納期:★★☆☆☆(遅れることも)
- バリエーション:黒御影石が豊富
適している人
- 深い黒色の石材を求める
- 価格と品質のバランス重視
国産石材(国内加工)
特徴
- 価格:★★☆☆☆(高価)
- 品質:★★★★★(最高レベル)
- 納期:★★★★☆(比較的短い)
- バリエーション:限定的だが個性的
適している人
- 品質を最優先
- 日本の伝統や職人技を重視
- 予算に余裕がある
代表的な国産石材
- 庵治石(香川県):「花崗岩のダイヤモンド」と称される最高級石材
- 真壁石(茨城県):青みがかった美しい御影石
- 岡崎石(愛知県):硬質で耐久性が高い
お墓ディレクターの視点
それぞれにメリット、デメリットがあり、よく検討して考えられた方がいいと思います。
こういった複雑な産地、加工地、石種を適切に区別できないセールスマン、商売上詳しく区別したくない石材店なども一定数あって、お店独自の名称を付けたり、敢えて産地、加工地を隠して販売したりということも行われているとも聞きます。
今後の墓石価格はどうなる?
複数の要因を総合すると、墓石価格は今後も上昇傾向が続く可能性が高いと言えます。
短期的(1〜2年)
- 中国の補助金削減による製造コスト上昇
- 円安傾向の継続
- 海上輸送費の高止まり
→ 5〜15%程度の価格上昇の可能性
中長期的(3〜10年)
- 中国の人件費上昇継続
- インドへの生産シフト(価格構造の変化)
- 国産回帰の動き(高級品市場)
- 需要減少による供給側の再編
→ 価格構造の二極化(低価格品と高級品の差が拡大)
賢い墓石選びのために知っておくべきこと
1. 産地表示を確認する
「中国産」と書かれていても、原石はインドということがあります。
確認すべき項目
- 原石の産地
- 加工地
- 石材の種類(御影石、安山岩など)
2. 価格だけで判断しない
安い墓石には、理由があります。
- 品質のばらつき
- アフターサービスの違い
- 施工技術の差
3. 納期に余裕を持つ
国際輸送は予期せぬ遅延が発生することがあります。春や秋のお彼岸、お盆に合わせたい場合は、半年以上前から準備を始めましょう。
4. 石材店の説明を聞く
信頼できる石材店は、サプライチェーンについても丁寧に説明してくれます。
良い石材店の見分け方
- 産地や加工地を明確に説明できる
- 複数の選択肢を提示してくれる
- メリット・デメリットを正直に話す
- 国際情勢と価格の関係を理解している
まとめ:グローバル化した墓石産業
一昔前まで、墓石は地元の石で、地元の職人が作るものでした。しかし今や、墓石産業は完全にグローバル化しています。中国の政策転換、インドの台頭、円安の進行、海上輸送費の変動――こうした世界経済の動きが、私たちの身近なお墓にも影響を与えています。
春のお彼岸でお墓参りをする際、ぜひ墓石に手を触れてみてください。その石は、遠い国の山で採掘され、海を越えて運ばれ、多くの人の手を経て、今そこにあるのです。そして、もしこれから墓石を購入する予定があるなら、グローバルなサプライチェーンと国際情勢を理解した上で、賢い選択をしてください。
価格、品質、納期、そして石材の背景にあるストーリー――すべてを考慮に入れることが、後悔しない墓石選びにつながります。
あなたの家族のお墓の石材は、どこから来たものでしょうか?石材店に聞いてみるのも、興味深い発見があるかもしれません。



















