何にも代えがたい宝物
※ この文章は後編です。こちらから読んでください。(→「一目ぼれでした」)
その書類を見ていると、主人が私のために残してくれた
大切な宝物、のような気になりました。
「二人だけのための終の棲家だよ」って言ってくれている気がしました。
そうすると、突然たくさんの思い出とたくさんの想いが
濁流のようによみがえってきたんです。
主人とのたくさんの思い出。
何事にも代えがたい大切な記憶。
それらすべてが私の中によみがえりました。
それから私は狂ったように泣き崩れて
しばらくは、自分でもおかしくなってしまったのかと思う程
涙があふれ続けました。
それが収まり、涙も出尽くしたかなと思った頃、
主人がこの世にいないということの片りんだけでも、心の隅っこに認めることが
出来るようになりました。
それで、
まず一番の望みは、あのお墓に主人と一緒に入ること。
いろいろ考えて、分骨という方法があることを知りました。
ご遺骨の一部を分けて別のお墓などに納めること。
でも、あの義理の両親がそれを認めてくれるはずがありません。
何しろ、お墓の場所すら教えてくれないのだから。
まず、主人の遺骨が収まっているお墓を探さないと行けない。
ことあるごとに実家には内緒でその近所の御寺院を探し回りました。
旧家なのできっと大きな寺院の中にお墓があるはずだ。そう思ったんです。
割と早く主人の納まっているお墓は見つけました。
広い寺院の墓地の中でひときわ目立つお墓だったのです。
どうやら、新しくお墓を建て直したようでした。
出来たてのお墓に見えました。
でも、恥ずかしい話、お墓の構造って私全く知らなかったんです。
どうやってお骨がお墓の中に納まるのか、すら。
何しろ、お骨をお墓に納める様子を見たことなかったから。
そこで、一旦その日は諦めて、自宅に帰り主人のお墓を建ててくれた業者さんにお電話したんです。
おおきた石材店さんとおっしゃいました。
そこで、お墓の納骨の仕方を教えてもらいました。
とっても親切に分かりやすく教えて頂けたんで、イメージできました。
で、あまりにも親切に対応して頂けたので、
思い切って私の考えていることをすべて話してみたんです。
しばらく熟考されておられました。
で、その後のおおきたさんのお答えは。。。
「すいません。奥さんのお気持ちは痛いほどわかります。
奥さんのしようとしていることは、まっとうな人間として、決して間違っていません。
でも、
お墓から密かに遺骨を持ち出す、という行為は、法に触れる可能性が高いです。
どうか、実家のご両親に了解を頂くようにしてください。
あるいは、
それが無理なら、法に則った手続きを踏んで、行うようにしてください。
でないと奥さんが悪者、犯罪者になってしまいます。」
「分かりました。諦めます」そう答えました。
おおきたさんはホントにほっとした表情でした。が
一抹の疑問もお持ちのようでした。
でも、もちろん「諦める」、そんなつもりは全くありません。
おおきた石材店のホームページに「納骨の仕方」という写真で説明してあるページがあったので、
そこを何度も何度も見返して、自分の中でシュミレーションしてみました。
多分、問題なくできると感じた時、再び主人の納まるお墓へ向かいました。
夜が都合が良かったんですが、夜は施錠されてはいることができないようだったので、
平日の昼間、人気が少ない時間だと思える時間を見計らって、主人のお墓の入り口を開けました。
とっても重かったです。
とても重たいのは、予想外でした。
おそらく普段なら、一ミリも動かすことはできなかったと思います。
でも、その時は、少しずつ少しずつ動いてくれたんです。
横にずらす要領で、少しずつ少しずつずらし、
やっと片手が入るだけのスペースが開きました。
中の様子をのぞくと、たくさんの古い骨壺の中に、
真新しい骨壺が一つ。
これだ!!
主人の遺骨だ!
その骨壺に触った瞬間、久しぶりに主人にふれた気がしました。
ごめんなさい。遅くなって。
やっと、来たよ。
しばらく片手でその主人の骨壺を感じていました。
が、長くそんなことをしているわけにもいかず、
すき間をのぞきながら、片手で、骨壺の蓋を開けて、その中の遺骨から
出来るだけ小さなひとかけらを取り出したのです。
ハンカチにそのひとかけらをくるんでポケットにしまい、
骨壺から外に出したお骨を元に戻し、
骨壺にふたをし、
また渾身の力でお墓の石を元に戻しました。
自分でも驚くほどの力でした。
私にこんな力があったのかと不思議な気持ちになりました。
多分主人が手助けしてくれたんだと思います。
全てが終わった後、
お墓に手を合わし、
主人に言いました。
「ごめんなさい。
ホントは全部持っていきたいんです。
でも、そうしてしまうとお義父さん、お義母さんもきっと
悲しまれると思うの。
それは、あなたも望んていないと思うから、ほんの一かけらだけ、もっていきます。
ごめんなさい。
じゃあ、また来ますね。」
そう言って、お墓の前を去りました。
その大切にしまった遺骨のかけらを
小さな壺に入れて、主人が購入したお墓に納めました。
納めると同時に、なんだか安堵したというか、
主人が帰ってきたように思えて、ホントにうれしかったです。
私がしたことは犯罪かもしれません。
でも、それしか方法がなかったんです。
他にどんな方法をとればよかったんでしょうか?
今は本当に心安らかで、守ってくれるものが出来た気分です。
まだまだ主人がいないことには慣れなくて、
誰もいないリビングを見ると、涙が出そうになります。
でも、それでも、昔とは違います。
どうしてもさみしくなったら、お墓へ行きます。
お墓へ行って主人に話しかけます。
応えてはくれないけど、主人に見守ってもらっている気がするんです。
きっと。
そう思います。
まだしばらくは、主人の元へはいけないけど、
それまで、私がそこへ行くまでは、
しばらく待っていてね。
そう話しかけています。
※ この文章は全てフィクションです。また違法行為が疑われる表現が含まれますので、
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