軍手が茶色くなるまで、10分
8月上旬の午前9時。この時間ならまだマシだろうと思って墓地に着いた時点で、もう間違いでした。
しゃがんで、抜く。しゃがんで、抜く。メヒシバの株を掴んで引くと、根っこが土ごとゴソッと持ち上がって、軍手の指先が茶色く染まる。10分でもう真っ茶色です。首に巻いたタオルは絞れるくらいで、ふと顔を上げると、抜き終わったはずの区画の向こうに、まだ青々とした一角が見える。
「先週、親戚が来たときは何もなかったって言うてたのに」
そうなんです。お盆前の草は、一週間で景色が変わります。そして毎年、私たちは同じ場所で同じ姿勢で、同じ草と戦っている。今年もたぶん、勝てていません。
なぜ毎年勝てないのか。相手の仕組みの話
石屋として墓地に通っていると、雑草に負けるのは根性の問題ではないことがよくわかります。相手の仕組みが、そもそもこちらに不利にできているんです。
まず、お盆前の8月は夏草の成長の最盛期です。メヒシバやエノコログサ(ねこじゃらし)のようなイネ科の夏草は、7〜8月の高温と日差しで一気に伸びて穂を出します。人間の都合で言えば「一年で一番草を抜きたい時期」と「一年で一番草が元気な時期」が、ぴったり重なっている。
そして、目の前の草を全部抜いても、土の中には種が待っています。雑草の種は土中で何年も発芽の機会をうかがっていて、上の草を抜いて日が当たると、むしろ次の発芽のスイッチが入ります。8月に完璧に抜いたお墓が、9月の彼岸にはもう青い——あの現象の正体はこれです。
つまり、草むしりというのは「今生えている分」を処理する作業であって、「これから生える仕組み」には一切手を付けていない。毎年勝てないのは、当たり前なんです。
それでも今年のお盆は来る。その場しのぎの正しいやり方
仕組みの話をしたところで、今年のお盆は待ってくれません。まずは今年を乗り切る話から。
以前の記事でも書きましたが、掃除の順番は草むしりが最初です。炎天下の墓地では途中で心が折れることが珍しくなく、草むしりを後回しにしてギブアップすると、草ぼうぼうのお墓だけが残ります。逆に、草さえ抜けていれば、多少水洗いが雑でもお墓は「手が入った顔」になります。体力のある最初の30分を、草に全部使ってください。

時間帯は朝の7時台まで。9時を過ぎたら、真夏の墓地は作業する場所ではありません。飲み物と、ほうき・塵取り(落ち葉の多い墓地では主役です)、そしてゴミ袋は多めに。抜いた草をその場に置いて帰ると、種が落ちて来年の敵になります。
除草剤を使う場合はひとつだけ注意を。隣の区画に薬剤がかからないように。墓地は他家の敷地と数十センチしか離れていません。風のある日の散布や、境界ぎりぎりへの散布はトラブルのもとです。
来年から「戦わない」という選択肢
さて、ここからが石屋の本題です。
草むしりに毎年勝てないのは、「生える仕組み」が残っているからだと書きました。ということは、解決策は草を抜くことではなく、発芽の条件(光・水・土)を断つことです。これをやるのが、お墓の防草工事です。
墓地の土の上に固まる土や石張りなどで層を作り、土に光が届かない状態にしてしまう。そうすると、土中の種は発芽のスイッチが入らないまま眠り続けます。草は「抜く」ものから「そもそも生えない」ものになる。
正直に書くと、ホームセンターの防草シート+砂利のDIYでも数年は効きます。ただ、お墓の場合は外柵の際(きわ)や巻石の隙間など、シートをきれいに切り回せない場所から草が突き抜けてくることが多く、数年後にシートの端がめくれて見た目が残念になる例をよく見ます。プロの工事との違いは、材料そのものよりこの「際の処理」の精度です。
費用や工法の詳細は、専用ページにまとめています。毎年の草むしりを「今年で最後」にしたい方は、一度ご覧ください。
おわりに:来年の8月、その30分を線香に使えたら
草むしりが「ご先祖様への奉仕」だという考え方も、私は好きです。汗をかいてお墓をきれいにする時間には、確かに意味があります。
ただ、80代のお母様が真夏の墓地でしゃがみ続けている姿や、「草が大変だから、お参りの足が遠のく」という声を聞くと、その奉仕は草むしりでなくてもいいんじゃないか、とも思うんです。
来年の8月、草に使っていた30分を、花を替えて、線香をあげて、ゆっくり手を合わせる30分にできたら。それも立派な、ご先祖様との付き合い方だと思います。
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